息子のキックが飛ばない。ドキュメンタリー監督が本気で原因を調べてみた|

“見る目”

息子のキックが、どうも飛ばない。

同じくらいの年代の子が蹴ると、もっと遠くまで飛んでいく。

もちろん、まだ9歳。体が小さいから仕方がない部分もある。

でも、息子は特別に体重が軽いわけでもない。足が遅いわけでもない。どちらかというとかなり速い。

それなのに、ボールを蹴ると、どうも勢いがない。

「何か原因があるはずだ」

そう思った。

こういう疑問が出てくると、ドキュメンタリーを作っている人間の悪い癖が始まる。

調べたくなる。


まずは、ひたすら映像を見る

最初にやったのは、キックの動画を探すことだった。

今はYouTubeを開けば、サッカーのキックについて解説している動画がいくらでも出てくる。

インパクトの場所。

ボールのどこに当てるのか。

足の角度。

軸足の位置。

蹴り足の振り方。

体の向き。

プロのような大人が、きれいなフォームでボールを蹴っている動画もある。

そういう動画に共通しているのは「みんな上手に蹴れている」だ。

「うまく蹴るな~」「うちの子もこういう風に蹴れないかな~」という感想を抱く。

一方で、苦手な子どもを指導者が直接教えて、少しずつフォームが変わっていく動画もある。

もちろん、どれも参考にはなる。

でも、家庭で息子に試そうと思うと、少し違う。

コーチが横にいるわけではないからだ。

動画を止めて、

「ほら、今の足を見て。こうなってるだろ」

「軸足はもう少しこっち」

「ボールのここに当てて」

と、親が一つ一つ説明しなければならない。

それをやっていると、いくら時間があっても足りない。

そもそも私の業界は違法レベルな忙しさだ。時間がない。

これでは効果は期待できない。

そもそもなぜ、息子のキックは飛ばないのか。

根本的な原因を知らべるのも、世の中の不特定多数の人に物を伝える仕事も携わる私の癖。


ドキュメンタリーを作る仕事では大量の映像を“見る”

私は普段からとにかく大量の映像を見る。

例えば30分のドキュメンタリー番組なら50時間ほどの映像素材を。

1時間番組ならその3倍くらいはチェックしていると思う。

取材対象者のコメント、顔の表情、シーンの天気、視線の向き、洋服の柄など細かく細かくチェックしノートに書きだす。

編集で使える映像を吟味して、その中から、

「これは使える」

「これは面白いけど、今回のテーマとは違う」

「これは一見もっともらしいけど、根拠が弱い」

などと選別していく。

もちろん、ドキュメンタリーを作っているからといって、何でも見抜けるわけではない。

ただ、毎日のように大量の映像を見ていると、

「この動画が本当に使えるのかどうか」

は、分かる。

今回も、ただ動画をたくさん見るのではなく、

「この方法は息子にも使えるのか?」

「この人だからできるだけじゃないのか?」

そんなことを考えながら見ていった。

そして、あることに気づいた。


あれ?「㊙」の話が多くないか?

キックの動画をたくさん見ていると、意外と次の言葉が良く出ているのに気づいた。

「手を振れ」

「腕を使え」

「腰を使え」

「胸を開け」

……あれ?

もちろん、サッカーは足でボールを蹴る。

でも、なぜこんなに「腕」や「上半身」の話が出てくるんだろう。

そこで初めて、

「キックって足だけの問題じゃないのでは…」

と思い始めた。


そういえば、息子には以前から気になるところがあった

息子は、以前から全身を使う動きが、なんとなくぎこちなかった。

例えば、縄跳び。

上手に跳べるようになるまで、結構時間がかかった。

ボールを投げるのも、なんとなく不器用だった。

腕だけで投げてしまったり、体をうまく使えなかったりする。

私は昭和の高度経済成長期の生まれの田舎育ちなので、子どもの頃、山や川や野原でよく遊んだ。

走ったり、跳んだり、登ったり、転んだり、物を投げたり、潜ったり…。

今思えば、そういう遊びの中で、いろいろな体の使い方を自然に覚えていたんだろうと思う。

今の子どもたちは決定的にそんな“遊び”が少ない。

息子のぎこちない動きを目の当たりにしていると、

「いろいろな体の動きを経験することって、案外大事なのかもしれない」

と以前から感じていた。

だから、キック動画の中で「腰」「腕」「手」という言葉が何度も出てきたとき、

「もしかすると…」

と思ったんです。


そして、ある動画に出会った

そんな中で見つけたのが、内野智章さんのキック指導の動画だった。

【有料級】日本一プロを輩出した内野監督のガチロングキック講座。「キックは上半身の使い方」

軸足やボールに入る角度などの解説もあるが、動画の中盤以降で興味深いシーンに目を惹かれた。

腕を回したり、上半身全体を回したり、肩を回したり…。

「なんだこれは…?」

と思ったが、内野さんの話には一本の筋がある。

取材のプロ、映像のプロの目から見て、「これはいい動画」だと思った。※ぜひ動画をご覧ください。

そこから、また私の癖なんですが、次のステップに進むことになります。

「これは本当にそうなのか?」


みんなが納得できるもの それは“科学的根拠”

映像で「なるほど」と思っても、それだけでは納得できない。

そこで、今度は論文や研究を調べ始めた。

海外の研究もかなり出てくる。

ただ、論文はそのまま読んでも専門用語が多くて難しい。

そこで今回は、AIに論文の内容を要約してもらいました。

細かい事実確認よりも、最新の研究結果が導いた大まかな結論を知りたい。

すると、思っていた以上に面白い研究が出てきたんです。


「キックは全身運動」という研究

2024年に発表された系統的レビューでは、サッカーなどのキックに関する研究を大量に調べて、上半身の動きがキックにどう関係するのかを検討している。

7つのデータベースから1,486件の候補を調べ、最終的に27研究、457人を対象に分析している。

その多くがインステップキックについての研究だった。

そして、このレビューでは、胸から腰にかけての体幹の回旋が、キックのボール速度と関係することについて、中程度のエビデンスがあるとまとめている。

つまり、

「足を速く振ればいい」だけではなく、

上半身の動きも含めて、体全体の動きを考えた方がいい。ということ。


さらに、面白い研究があった

2021年の研究では、18人の成人男性サッカー選手を対象に、強いインステップキックをするときの体幹、骨盤、蹴り脚の間で、どのようにエネルギーが伝わるのかを調べている。

タイトルからして面白い。

「The trunk is exploited for energy transfers of maximal instep soccer kick」

つまり、最大限のインステップキックにおいて、体幹がエネルギー伝達に利用されることを調べた研究だ。

ここでも、キックを「脚だけの動作」として見るのではなく、

体幹 → 骨盤 → 脚

という全身のつながりの中で捉えている。


さらに「上半身を鍛えたら、脚の動きが変わった」という研究まであった

ここで、さらに気になる研究を見つけた。

2023年の研究だ。

研究には成人男性26人が参加し、トレーニングを行うグループと、行わない対照グループに分けられた。

トレーニンググループは8週間にわたって、通常のキック練習に加えて、腕と体幹前面の筋肉を対象としたレジスタンストレーニングを行った。

一方、対照グループは、同じ期間、通常のキック練習を行ったものの、腕や体幹を対象とした追加のレジスタンストレーニングは行わなかった。

そして8週間後、両グループのキック動作を比較した。

すると、トレーニンググループでは、キックのバックスイングの段階で、股関節の伸展が大きくなっていた。

つまり、

上半身・体幹をトレーニングしたら、脚側の動きにも変化が出た。

研究者はこれを「nonlocal effect(非局所的な効果)」として報告している。

これは、かなり面白い!

上半身と下半身はやはり連動している!


キックは「足だけ」で考えないほうがいいのかもしれない

ここまで調べて、僕の中で少しずつキックの見え方が変わってきた。

最初は、

「息子は足の振りが弱いのかな」

「ボールの中心に当たっていないのかな」

そんなふうに考えていた。

でも、調べれば調べるほど、

腕

胸・体幹

骨盤

股関節

脚

足

それぞれがバラバラに動いているのではなく、全身の動きとしてキックを考えようと思った。

「キック=脚の力」

だけでは説明しきれない部分がある。

今回調べて、そこが一番の発見だった。

ここまで調べてきた私の感想。

やっぱり「体を思い通りに動かす能力」なんじゃないかなと思ってしまう…。

ぎこちない動きをする子はそこを改善していけば、伸びていくんじゃないかと。


では、どうする?

解決の糸口が見えてきた感じがありますが、

最終的には具体的な行動につなげてもらうのが我々の仕事の最終地点です。

じゃあ、実際に上半身をどう鍛えればいいんだ?

9歳の子どもに、大人向けの本格的な筋力トレーニングをそのままやらせるわけにはいかない。

「上半身を使え」と言われても、それだけで体の使い方が変わるわけでもない。

では、

子どものサッカー選手にとって、キックにつながる上半身とは何なのか。

そして、

9歳くらいの子どもなら、どんなトレーニングができるのか。

さらに調べてみると、子どもを対象にした体幹やバランス、全身の連動性に関する研究も出てきた。

「上半身を鍛える」といっても、単純に腕立て伏せをたくさんやればいい、という話ではなさそうです。

ここはもう少し調べてみたい。

次回は、

「キックにつながる上半身トレーニングって何?」

をテーマに、9歳の息子でもできる方法を探してみようと思います。

takeisan

ギャラクシー賞等受賞・ドキュメンタリー監督。アナウンサーなどの採用面接官も務める。人口40万の市大会3位のMF。週末は8歳の息子を追う「少年団パパ」。独自の観察眼で、少年団サッカーと将来の「選ばれる力」の意外な関係を綴ります。

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