パパね、子どものころ山奥に住んでたのよ。
山道をずっと登っていくと、一番上に家があってね。
それがパパの家だった。
だから家の裏は全部山。
昼間はよく遊びに行ってたよ。
タケノコ掘りもやったし、
崖のぼりもやった。
山犬に遭遇したこともあったし、
石を積み重ねて作られた小さなピラミッドみたいなものもあった。
昼間は楽しい場所だった。
でもね。
夜になると全然違うのよ。
山奥だから、外灯なんてほとんどない。
あるのは家の中の蛍光灯の明かりくらい。
だから夜になると、
本当に真っ暗闇になるの。
するとね、
夜になると森の中から変な音が聞こえてくることに気づいたのよ。

不思議なんだけど、
小学校3年生くらいまでは全然気にならなかったんだよね。
そんな音がしてることすら知らなかった。
でも4年生くらいになると、
「あれ?」
って思うようになった。
なんか変な音が聞こえるなって。
ずっと遊んでいた森なのに、
夜になると昼間とは全然違う顔を見せるのよ。
例えばね。
「キーッ!」
っていう音。
サルが鳴いたみたいな声なんだけど、
その辺にサルはいない。
だからサルじゃないはずなんだよね。
でも、
「キーッ!」
って鳴くの。
頻繁じゃないのよ。
1日に1回くらい。
忘れたころに、
「キーッ!」
って。
あとはね、
もっと不思議な音もあった。
ファミコンのゲームみたいな音。
森の中から、
「ドレミファソラシド〜
ドレミファソラシ〜」
って聞こえるの。
本当に。
周りに家なんてほとんどないし、
最初は家の中の何かが鳴ってるのかなって思った。
でも違う。
夜中の1時とか2時とか。
みんな寝静まった時間に、
森の中からうっすら聞こえてくるのよ。
あまりにはっきり聞こえるから、
「ねえ、聞こえる?」
って家族に聞いたの。
するとね、
「聞こえない」
って言うのよ。
みんな。
だから、
あれ?
パパだけに聞こえてるのかなって。
耳鳴りかなって思ったこともあった。
でも耳は別に悪くなかったし、
結局あれが何だったのかは今でも分からない。
あとね。
ちょっと怖かったのが、
子どもの笑い声。
小学校1年生とか2年生くらいの子どもが遊んでるみたいな声。
キャッキャッって。
最初は、
誰か遊んでるのかなって思った。
でも時計を見ると、
夜の8時とか9時なのよ。
いやいや。
こんな時間に森で遊ぶ子いないだろうって。
聞き間違いかなって思うんだけど、
確かに森の方から聞こえてくる。
そういうことが何回もあった。

それでね。
昼間に森へ行くのが少し怖くなっちゃったの。
オバケがいるのかな。
妖怪かもしれないな。
そんなこと考えるようになってさ。
そうしたら、
2つ上の兄ちゃんとか、
3つ上のいとこが、
こんな話をしたのよ。

「あの石積んであるやつ、
昔の人の墓らしいよ」
戦で死んだ侍の墓だとか、
そんな話だったかな。
もうね。
それ聞いたら近づかなくなった。
それまで悪ガキだったからさ。
石を蹴飛ばして遊んでたりしたのよ。
今思うと、
ずいぶん罰当たりなことしてたなって思う。
でも、
本当にお墓だったのかどうかは今も分からない。
今はね、
高速道路ができて、
家の裏の山はほとんどなくなっちゃった。
だから、
あの森ももうないんだ。
でもね。
忘れられない音が一つある。
それも夜の森から聞こえていた音。
「ポーポーどしてぇ〜
ポーポーどしてぇ〜」
何回も繰り返すの。
なんだろうな〜って、
ずっと思ってた。
そしたらね。
つい最近。
会社へ行く途中で、
その音を聞いたのよ。
「あっ!」
ってなった。
懐かしい。
あの音だ。
そう思って周りを探したら、
道路脇の家から聞こえてる。
よく見たら、
鳥かごみたいなのがあってね。
そこに、
たくさんのハトがいたのよ。
そして、
あの声。
「ポーポーどしてぇ〜」
何十年も分からなかった音の正体が、
そこでようやく分かった。
だから、
もしかしたらね。
昔、
森の中から聞こえていた音も、
鳥だったのかもしれない。
YouTubeで見たら、
びっくりするような声で鳴く鳥も結構いるしね。
でも、
子どもの笑い声は、
結局なんだったんだろうね。
パパは今でも分からないのよ。
あれ、なんの音だと思う?


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