接骨院の怖い人
パパの仕事ってね、ニュースを作る仕事でもあるんだよ。
事件や事故があったら話を聞きに行って、
「どうしてそんなことが起きたんだろう」
って調べる。
そして、同じことが二度と起きないように、新聞やテレビやネットで伝えるんだ。

でもね、
この仕事って意外と難しいのよ。
みんながみんな、話してくれるわけじゃない。
怖くて話せない人もいるし、
話すことで困る人もいるし、
そもそも秘密にしたい人もいる。
だから、話を聞きたい相手にたどり着くまでが大変なんだよね。
そんなある日のこと。
東京で土地の売買に関する怪しい話を聞いたんだ。
人の土地を勝手に売ろうとして、
お金だけだまし取る人たちがいるらしい。
東京の土地って高いからね。
何億円というお金が動くこともある。
これは大きなニュースになるかもしれない。
そう思って調べ始めたんだ。
すると、仲の良い警察官が、
「ちょっと変わった情報屋がいるよ」
って教えてくれた。
その人はパパより若かったんだけど、
いろんなことを知っているらしかった。
そこでファミレスで会うことになったんだ。

でもね、
その人も土地の話は知らなかった。
逆に、
「そんな話があるんですか?」
って驚いていたくらい。
ただ、
帰り際に妙なことを言ったんだ。
「その話を知ってるかもしれない人がいる」
「でも危ない人だからなぁ」
そう言って、しばらく悩んでいた。
そして最後に、
「俺の名前は絶対に出さないでください」
と言って、ある人の居場所だけを教えてくれた。
その人は郊外の接骨院をやっているらしかった。
接骨院なら怖くないかな。
そう思って次の日、
その場所へ行ってみたんだ。
でもね。
ちょっと変だった。
外から中が見えない。
普通の接骨院なのに、
なんとなく入りにくい。
それでも意を決して入った。
受付には年配の女性がいて、
パパが新聞記者だと伝えると、
大きなため息をついたんだ。

そして突然、
何語か分からない言葉で奥へ向かって大声を出した。
中国語だったのか、
韓国語だったのか、
今でも分からない。
しばらくすると、
奥から一人のおじさんが出てきた。
猫を抱いて。
ものすごく普通のおじさんだった。

しかも、
にこって笑った。
「名刺見せてくれる?」
そう言われて名刺を渡したら、
少し見て、
「ここじゃ何だから上で話そう」
と言った。
そのまま後ろをついて行ったんだけどね。
そこがまた不思議だった。
おじさんの足元には、
白い猫と黒い猫。
抱っこしているのは茶色い猫。
猫に囲まれてるのよ。
しかも真冬なのに素足。
靴下も履いてない。
スリッパも履いてない。
でね。
パパが一番驚いたのは、
足の親指。
めちゃくちゃ大きかった。
からあげクンを三つ並べたくらいあったんじゃないかな。
とにかくびっくりするくらい大きかった。
部屋に通されると、
おじさんはずっと猫を抱いたまま。
そして、
新聞社の給料から結婚しているのかまで、
いろんなことを聞いてきた。
でも全然嫌な感じじゃない。
むしろ気さくで、
話していて面白い人だった。
気がつけば30分くらい、
政治の話や世の中の話をしていた。
そして、おじさんが言った。
「君に何か食べさせてあげよう、食事を準備するよ」
いやいや、
取材に来て食事までいただくのは申し訳ない。
そう思って断ったんだけど、
結局、
香りのいいコーヒーをいただくことになった。
ここまでの話で、このおじさんは接骨院の院長をやっているけど、
おそらく裏社会の人だなという感じだった。
きっと悪いことを隠れてやってそうな感じだった。
悪い人たちとのつながりもありそうだった。
それでね。
コーヒーを飲みながら、おじさんが言った。
「で、君はきょう何を聞きに来たんだい?」
ようやく本題に入ることになった。
「土地の売買の話です。」
「何か知りませんか。」
そう言った瞬間だった。
おじさんが黙った。
腕を組んだまま、
何も言わなくなった。
シーン。
すごい沈黙。
パパはね、
「あ、これ聞いちゃいけないことだったかな…」
って思った。
すると次の瞬間。
ドォォォン!!
大きな音と一緒に、おじさんがテーブルを膝で蹴り上げた!
テーブルが浮き上がった。
抱っこされていた茶色の猫が、
びっくりして飛んで逃げた。
パパは本気で思った。
終わった。
怒らせた。
もうこの部屋から逃げようかと思ったのよ、怖いし。
もしかしたら、この建物の中に女性以外にも手下みたいな人もいるかもしれないし。
そう思った。
次の瞬間。
「オラァ!!」
って叫んだおじさんが睨んでいたのは、
正面にいるパパじゃなかった。
テーブルの下。
黒猫。
大きな親指をガブッと噛んだみたい。
猫の歯は尖ってます。
痛くてびっくりして足が動いて、
テーブルに膝があたったのでした。
パパは命の危険を感じていたんだけどね。
黒猫はすぐに部屋から追い出された。
近くにいた白猫も足元をうろうろしていたから追い出された。
で、土地の話なんだけど。
土地の話そのものは分からなかった。
でも、
その世界にいる人たちが昔どんなことをしていたのか。
表には絶対に出てこない話を、
いろいろ聞かせてもらった。
そして、
もっともっと悪いことをしている人がいるぞって。
パパが追っかけていたのは地面師の走りだったのかもね。
今でもたまに思うんだよ。
おじさんの親指がなんであんなに大きかったのか…。
黒猫はなんで親指をガブってやっちゃったのか。
どう思う?


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