考える子は、いつ考え始めるのか

“見る目”

――誰も答えを言わなかった、その時間に起きていたこと

思考が動き出す瞬間は、だいたい静かだ

子どもが「自分で考え始める瞬間」というのは、
意外と分かりにくいものです。

「できた!」という声が上がるわけでもないし、
大人が「今だ」と感じる合図があるわけでもない。

むしろ、
誰も何も言っていない時間の中で、
ゆっくり、ほとんど気づかれない形で起きています。

ももリフティングが、ずっと20回で止まっていた頃

息子が、ももリフティング100回を目標にし挑戦をしていました。

でも現実は、なかなか厳しかった。
2か月近く、回数はずっと20回前後。

YouTubeで見ると、やり方ははっきりしていました。

  • 太ももは地面と水平くらいまで上げる
  • ボールはまっすぐ上に
  • 太ももを上げる高さを安定させる

太ももが上がりすぎると、顔に当たる。
低いと、前に流れる。

理屈は分かる。
動画も分かりやすい。

だから私は、
何度も動画を見せました。
時には、言葉でも説明しました。

「これが正解だよ」
「こうやればいいんだよ」

でも、回数は伸びない。
顔に当たる。
前に行く。
また20回。

息子は、悔し涙を流しながらも、
それでも練習をやめませんでした。

私はもう何も手助けすることができない状態がしばらく続きました。

3か月目に起きた、小さな変化

3か月目に入った頃、
突然、回数が伸び始めました。

60回。
70回。
80回。

私は最初、
「太ももを安定的に上げる筋力がついてきたのかな」と思いました。

でも、息子の説明は違いました。

「顔に当たってダメだったからさ、
背筋をピンって伸ばすやり方でやってみたんだよ」

正直、
最初は意味がよく分かりませんでした。

でも、実際にやっているのを見ると、
体がほとんどブレず、
ボールも安定して上がっている。

そこからは本当に早くて、
数日のうちに100回を超えました。

大事なのは「背筋ピン」じゃなかった

ここで大事なのは、
「背筋を伸ばす」というコツそのものではありません。

そこに、どう辿り着いたかです。

この間、息子は、

  • 顔に当たる
  • 回数が伸びない
  • 悔しい

という状況を、何度も経験しています。

そのたびに、
誰かが答えを教えたわけではない。
動画の通りに、うまくできたわけでもない。

「じゃあ、どうする?」
を、自分の中で回し続けた

そして出てきたのが、
「背筋ピン」でした。

「自立性が守られた状態」って、こういうこと

心理学では、
こういう場面を
「自立性(オートノミー)が守られた状態」
と呼びます。

難しい言葉ですが、
意味はシンプルです。

  • 評価されない
  • 正解を急かされない
  • 失敗しても回収されない

だから、

「合ってるか分からないけど、やってみる」

が、できる。

実際、
自己決定理論(Deci & Ryan)に基づく多くの研究で、
答えを与えられない状況の方が、
子どもは長く考え、試し続ける
ことが示されています。

子どものコメントとして、
研究でよく報告されるのは、こんな言葉です。

  • 「今日は言われなかったから、やってみた」
  • 「分からないけど、前と違うことをした」

この
「分からないけど」
が、とても大事なんだと思います。

思考は「即答できない時間」に育つ

息子がやっていたことを、
少しスローモーションで見ると、こんな感じです。

  • すぐには答えが出ない
  • なんとなく違和感がある
  • 別のやり方が浮かぶ
  • 確信はないまま、動く

この遅れこそが、思考なのではと思います。

心理学の「生成効果」という研究でも、
他人の答えを覚えるより、
自分でひねり出した不完全な答えの方が、
理解も記憶も強く残る
ことが分かっています。

だから、芽吹きは気づかれにくい

思考が芽吹く瞬間は、

  • 教えた瞬間でもない
  • 褒めた瞬間でもない

誰も答えを言わなかった時間です。

別の記事で書いた
「うまくいかせたい善意」が、
ほんの少し引っ込んだとき。

その隙間に、
思考は静かに動き始めます。

その後、息子はそれを誰かに伝えた

息子は、
自分なりの答えを見つけたあと、
それをチームの仲間にも話していました。

「背筋ピンってやると、続くよ」

説明は上手じゃない。
理屈も完璧じゃない。

でもそれは、
借り物じゃない言葉でした。

思考は、教えたときに育つわけじゃない

この話は、
特別な才能の話ではありません。

YouTubeも見た。
大人も関わった。

ただ、
最後の答えだけは誰も示すことができなかった

それだけの違いです。

思考は、
教えたときに動くのではなく、
手を出さなかった時間に、
ゆっくり育つんじゃないかと思います。

takeisan

ギャラクシー賞監督で現役のテレビディレクター。アナウンサーなどの採用面接官も務める。週末は8歳の息子を追う「少年団パパ」。独自の観察眼で、少年団サッカーと将来の「選ばれる力」の意外な関係をドキュメンタリー風に綴ります。新連載:原爆の謎を追いかけて 公開中

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